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AIと特許について(その7)


 前回は、「進歩性」が否定された例について説明しましたが、今回は「進歩性」に関する他の例について説明いたします。

 下記「水力発電量推定システム」の発明を題材として検討します。この水力発電量推定システムの発明に関する請求項1は、入力データから出力データを推定する推定手法の単純な変更のため、進歩性が否定されるものの、請求項2は、学習に用いる教師データの追加に顕著な効果が認められるため、進歩性が肯定された例とされます。

【請求項1】
 情報処理装置によりニューラルネットワークを実現するダムの水力発電量推定システムであって、入力層と出力層とを備え、前記入力層の入力データを基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の降水量、上流河川の流量及びダムへの流入量とし、前記出力層の出力データを前記基準時刻より未来の水力発電量とするニューラルネットワークと、
 前記入力データ及び前記出力データの実績値を教師データとして前記ニューラルネットワークを学習させる機械学習部と、
 前記機械学習部にて学習させたニューラルネットワークに現在時刻を基準時刻として前記入力データを入力し、現在時刻が基準時刻である出力データに基づいて未来の水力発電量の推定値を求める推定部と、
 により構成されたことを特徴とする水力発電量推定システム。
【請求項2】
 請求項1に係る水力発電量推定システムであって、前記入力層の入力データに、さらに、前記基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の気温を含むこと、を特徴とする水力発電量推定システム。

 なお、概念図を下に示します。

【引用発明1】
 情報処理装置により重回帰分析を行うダムの水力発電量推定システムであって、説明変数を基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の降水量、上流河川の流量及びダムへの流入量とし、目的変数を前記基準時刻より未来の水力発電量とする回帰式モデルと、前記説明変数及び前記目的変数の実績値を用いて前記回帰式モデルの偏回帰係数を求める分析部と、前記分析部にて求められた偏回帰係数を設定した回帰式モデルに現在時刻を基準時刻として前記説明変数にデータを入力し、現在時刻が基準時刻である前記目的変数の出力データに基づいて未来の水力発電量の推定値を求める推定部と、により構成されたことを特徴とする水力発電量推定システム。
【周知技術】
 機械学習の技術分野において、過去の時系列の入力データと将来の一の出力データからなる教師データを用いてニューラルネットワークを学習させ、当該学習させたニューラルネットワークを用いて過去の時系列の入力に対する将来の一の出力の推定処理を行う。

[請求項1の発明に拒絶理由があることの説明]
 請求項1に係る発明と引用発明1とを対比すると、両者は以下の点で相違する
(相違点)
 請求項1に係る発明は、入力層と出力層とを備えたニューラルネットワークにより水力発電量推定を実現するのに対し、引用発明1では、回帰式モデルにより水力発電量推定を実現する点。
(相違点についての検討)
 引用発明1と周知技術とは、データ間の相関関係に基づき、過去の時系列の入力から将来の一の出力を推定するという点で機能が共通する。
 以上の事情に基づけば、引用発明1に周知技術を適用し、回帰モデルに代えて学習済みニューラルネットワークを利用して、水力発電量推定を実現する構成とすることは、当業者が容易に想到することができたことである。
 以上より、請求項1に係る発明は、進歩性を有しない。

[請求項2の発明に拒絶理由がないことの説明]
 請求項2に係る発明と引用発明1とを対比すると、両者は以下の点でも相違する。
請求項2に係る発明は、入力層の入力データに、基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の気温を含むのに対して、引用発明1ではそのような構成になっていない。
(相違点についての検討)
 請求項2に係る発明は、水力発電量の推定に上流域の気温を用いているが、水力発電量の推定に上流域の気温を用いることを開示する先行技術は発見されておらず、両者の間に相関関係があることは、出願時の技術常識でもない。
 一般に、機械学習においては相関関係が明らかでないデータを入力データに加えるとノイズが生じる可能性があるところ、本願の請求項2に係る発明では、入力データに、基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の気温を用いることにより、春のシーズンにおいて「雪解け水」による流入量増加に対応した高精度の水力発電量を推定することが可能である。この効果は、引用発明1からは予測困難な、顕著な効果であるといえる。
 よって、水力発電量の推定における入力データに、基準時刻より過去の時刻から当該基準時刻までの所定期間の上流域の気温を含めるという事項は、引用発明1に周知技術を適用する際に行い得る設計変更ということはできない。
 以上より、請求項2に係る発明は、進歩性を有する。

特許庁ホームページより


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