日本弁理士会では農林水産ビジネスへの知的財産活用を図ることを目的として、専用のウエブサイトを立ち上げています。
さらに、「農水知財の活用Q&A」として活用のためのQ&Aも設けられています。そして、そのQ&Aの一例として下記のようなものが考えられます。
なお、ご興味のある方は下記URLをご覧ください。
https://www.jpaa.or.jp/nousui-ip/
Q: 近年、畜産業者の規模が拡大する傾向にあり、規模拡大に伴い家畜に対する伝染病対策が重要となっています。対策を具体的に種々考えていますが、この伝染病対策の知財による保護は可能でしょうか?
A: 家畜が感染しないためには伝染病のウィルスが外部から侵入しないようにする必要があります。このため、従業員の衛生管理は当然のことですが、まず鶏舎や畜舎をウィルスが侵入しにくい構造とすることが考えられます。また、大規模な畜産業者は大量の飼料が必要となり、この大量の飼料の衛生管理も重要となります。さらに、衛生管理を厳密に行って出荷した製品である食肉を他の生産者のものと差別化してより高い価格で販売することを考えても良いかと思います。
以上より、以下のような知財による保護を検討できます。
(1)特許出願
鶏舎や畜舎をウィルスが侵入しにくい斬新で特殊な構造とした場合、鶏舎や畜舎の新たな構造を発明と捉えて特許出願し、特許権を取得することが考えられます。
特に鶏舎や畜舎の構造であれば外部からも容易に判別でき、他人に模倣される可能性が高いと言えます。他方、他人が同様の構造を採用した場合も、模倣の判別が簡単にできることから、侵害事実の把握も容易といえます。このため、可能であれば特許出願することをお勧めします。
(2)ノウハウ化
種々の機材や飼料が畜産業には必要となりますが、衛生管理のためにこれら機材や飼料に放射線や紫外線を照射することが考えられます。特に大量に消費する飼料への殺菌のための放射線等の照射は重要と言えます。但し、単に放射線等と言っても、十分な殺菌効果を得るには波長、強度、照射時間等の検討が必要で有り、また、大量の飼料に効率よく放射線等を照射できるか否かの観点も必要になります。このため、最適な照射条件が具体的に得られているのであれば、波長、強度、照射時間等の照射条件を他人に模倣されないようにノウハウとして、管理することが考えられます。
(3)商標登録出願
衛生管理を厳密に行って出荷した製品である食肉を他の生産者のものと差別化したい場合には、商標登録出願して食肉をブランド化することが考えられます。
具体的には、「○○鶏」や「○○豚」等の衛生管理と関係が窺えるような名称あるいはデザイン等を考える他、保護を求めたい商品やサービスを指定して商標登録出願します。ご質問の場合「食肉」や「肉製品」等が指定すべき商品として考えられますが、他の商品や関連のサービスを指定することも考えられますので、主な利用分野を詳細に検討する必要があります。
そして、ある商品やサービスについて商標権を取得すると、その商品に類似する商品等に類似する商標を、他人が使用することも禁止できるようになります。このように競合商品名防止の観点からも、商標登録出願をすることをお勧めします。